デコイNo.22
「アホウドリ」を知っているだろうか。
ワタリドリの一種でなんとも可愛らしい容姿をしている。
19世紀頃からその羽毛欲しさに乱獲が起こり、今では日本の伊豆諸島に数百羽ほどしか生息していない絶滅危惧種のひとつだ。
生息と言ったが、この場合は「コロニー」いわば宿木、お気に入りのホテルである。
彼らはシーズン毎に島を転々とする遊牧民のような生活様式をしている。
夏はベーリング海やアラスカ湾、冬が近づくと南下し、日本近海で繁殖の時期を迎える。
文化祭や体育祭マジックによる高校生のマッチング量産体制といったところか。
カップリングのコツは「ダンス」
全身を使ってオスがメスの前で踊ってみせるのだ。その求愛ダンスに応じてもらえば晴れて夫婦。
アホウドリは一夫一妻制でつがいとなった夫婦は生涯を共に過ごすそうだ。
生態も非常に面白い。
名が体を表したのか、体が名を表したのか、その名の通りにアホなのである。
日本国内だけでも630万羽捕獲されたという記録さえ残っている。
何故そんなに捕まったのか、ふつう逃げるのに。飛べるのに。
それは警戒心ユルユルだったからに他ならない。
仲間が1m先で殺されても警戒することなくエサを食べ、逃げようにも飛ぶのでさえ坂上からかなり助走をつけて羽をばたつかせないと飛翔できないポンコツぷり。しかもノロいときてる。
ATフィールドノー展開。ストゥーピド、フール、イディオット、なによりドアホウなのである。
さすがのアホウドリも半世紀ほどかけて気づいたのだろう。あそこ行ったら殺されるからもう行かんとこって。
そんな中1990年代からアホウドリの増殖事業が始まった。いわば計画誘致。
もうとりませんやん、戻ってきてくださいよといわんばかりの人間が考えた内容はこうだ。
精巧なアホウドリの模型を島に92体置き、スピーカーからアホウドリの鳴き声を流す。
仲間がたくさんいる!と思ったアホウドリが島に戻ってきてくれるだろうという素人目で見ても、なんともマヌケでお粗末な計画であった。
模型は「デコイ」と名付けられ番号が割り振られた。そしてそれぞれ島に配置されたのである。
しかしなんとこのマヌケな計画、
大成功したのである。
90年代末になると、かなりの数のアホウドリで島は埋め尽くされ、以前のような景色を島に取り戻した。
いやーよかったよかった。という話ではない。
奇妙なある1羽のアホウドリが確認された。
周りでカップルが爆誕し続けるなか、あるオスのアホウドリが模型「デコイ」に求愛のダンスを踊りだしたのである。
デコイに割り振られたナンバーは「22」
その様子は次の日にも確認された。
その次の日も。その次も。
雨の日も、風の強い日も..。
彼は同じ模型にダンスを踊り続けたのである。
恋をしたのだ。
「デコイNo.22」に。
彼はその冬、そのデコイの前で踊り続けた。
朝から晩まで。しかし模型は模型。
反応なんて返ってくるはずもなく、彼は失意(?)の中、島を後にすることとなった。
ぼっち確定演出である。
時は流れ翌年。
通年通り、繁殖の為にアホウドリたちが島を訪れる。
なんとまたあるオスのアホウドリがそのデコイNo.22の前で求愛ダンスを披露した。
それは昨年、見向きもされず、
島を後にしたあのアホウドリと一緒の個体であった。
彼は「デコちゃん」(安直)と名付けられ、その恋の顛末を見守られる形となった。
エンドは初めからバッドにも関わらず、彼は来る日も来る日も踊り続けた。
その期間、なんと10年である。
時は流れ2006年「当初の目的は達成された」として、島からデコイを撤去されることが決定した。
冬にはまたデコちゃんが来る。
デコイNo.22だけでも島に残してやれないかという声と、それではデコちゃんは一生報われなくなる、全部撤去してあげるほうが彼の為だ。という意見で議論が巻き起こった。
事の顛末は、、、
自分の目で確認してください。笑
「デコイNo.22」
結果は問題じゃないからだ。
僕はこのドキュメンタリーを、当時16歳ほどだったかに鑑賞し号泣した。
まるでひとつのロックバラードを聴いた後のような焦燥と感慨に心入ったのである。
なれるだろうか。あんなアホウドリに。
10年見向きもされない相手に、
毎日好きだと告白し、一生童貞でぼっちのまま踊り続けることが。
自分を貫き続けること。
諦めないこと。
なにより彼のデコイNo.22への熱量。
命そのもの。
彼は愚直だが、愚かだと思う人などどこにいる。
胸を打つ彼の存在は、異種族である僕の中でいつも燦然と輝いている。
「あいつはアホだ」「どうせ報われない」
そんなこと考えている間にダンスさえ踊れない奴にはなるな。
そんなことを教えてくれる気さえするのだ。
そこは東京都、伊豆諸島のとある島。
命そのものの熱量で灯した
とあるアホウドリの
始まらない恋と終わらない愛。