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うさぎのカタルシス

葬儀屋さん

カリスマの正体

 

「俺にはまだまだ店長としてのカリスマ性が足りないんですか」


そう言って項垂れたのは僕と同じ会社に勤める後輩社員だった。


以前からぼーっとしたり、緊張感が抜けることはたびたびあれど、持ち前の愛想と笑顔、憎めない愛されキャラなところがあり、このたび店舗の責任者、つまり「店長」を任じられた若手社員のひとりだ。


僕は今ざっくり言うと、さまざまな飲食店舗におけるデリバリーの受注を増やせるように企業や法人へ営業活動をしている営業マンだ。

焼鳥屋としての僕は最近なりを潜め、彼からシフトがどーしても足りない時に店舗への出勤を要請され週末たまに焼鳥おじさんをしている次第。


店舗はというと、席数は当然満席率60%に抑えている。このご時世だ。やんごとなき事情ではあれどコロナ以前のような活気に戻るのはなかなか難しいだろう。

有難いことにその60%は週末ともなれば自然と埋まっていく。お店の生ビールや焼鳥はやはり美味しいし、恋しいのであろう。

店舗では足りない売上を補填する為にテイクアウト、デリバリー事業を並行して行っている。


そんな中の金曜日、ある母娘からのテイクアウトのご注文をいただいた。焼鳥10本の盛り合わせと鶏の唐揚げ。

娘さんは小学校高学年といったところか、お手製のマスクは可愛い柄で作られていて、興味津々と店内の焼酎じいさんの群れや、若者たちの甲高いトークを眺めていた。


きっと2人の帰りを父親が待っているのかもしれない。

お母さんは仕事帰りのようだし、毎日スーパーへ寄って、家で食事の用意をするのも辟易としているだろうな。

家にはトイプードルがいるかもしれない。


僕はお手製の妄想とそのストーリーを暴走させていると、急にその家族のことが愛らしく感じられてきた。

焼鳥が焼き上がるとアルバイトにひとこと添えた「5本くらいサービスしといたから。あいつ(店長)からって言ってあげて」


お母さんに商品を渡し、会計をする。

アルバイトが「店長からです」とサービスの内容を伝える。

「へへ、いいことしたぜ」そんなナルシズムに陶酔していると、視線を感じ顔を上げる。

お母さんは僕の方を見て「ありがとうございます〜」と満面の笑みで仰った。

鳩が豆鉄砲を食らった顔をした僕は「え!?あっ、ありがとうございます〜!」


お見送りをした後、レジの前で店長の彼が言ったセリフが先の「俺にはまだまだカリスマ性が足りないのか」というものであった。


つまりあの母娘は僕をどうやら店長と認識したものであったらしい。


「そんなことないよ!足りないのは知性と緊張感!」と言ったら息を引き取ったかもしれないのでぐっと我慢した。

 

 

僕にとって「カリスマ性が無い」という問題についてはなにか懐かしくもあり、恥ずかしさも介在していた一言であった。


そう僕も23歳頃、彼と同じ質問をグループの創業者にぶつけていた。

 

僕は創業者(会長)のことを親しみを込めて「大将」と今でも呼んでいる。

ベスト・オブ・ビッグ・ボスだ。


当時、アルバイトやお客さんからも舐められ、思うように仕事が捗らず、数字も伸びない。やることなすこと上手くいかない気がしていたのだ。

それをひたすら自分の若さやカリスマ性の所為にした。


「大将、どうやったらカリスマ性がつきますか?」

仕事の電話でのことだった。

純粋な気持ちからきた質問だった。

それぐらい自分のスケールだけにこだわっていた。


すると大将は電話口でケラケラと笑った。

 


「可愛いなーおまえしょうもないぞ」

 


何故だか分からなかった。

自分にカリスマ性がつけば、カリスマの成り方さえ分かれば上手くいくはずなんだと盲信していたからだ。


大将は続けてこう言った

 

「カリスマ性はなー....そんなもんな。ないぞ。やった奴だけがそう言われるだけやねん」


僕は虚をつかれた思いをした。

じゃまたな〜と軽快な声で大将は電話を切った。


そう、僕は誤解をしていたと気づいたのはその時だった。

カリスマ性があるやつが成功をし、人望に恵まれ、うまくいくものと。


つい1週間前、リオネル・メッシが通算700得点を記録したらしい。

守備やシステムが確立された現代フットボールの歴史では未曾有の、前人未到の記録を彼は塗り替え続けている。

すごいことだ。

 


つまりは「カリスマ性」の正体とはそれのみである。

 


周りが勝手に付随し、言うだけなのだ。

結果が出た人だけを対象に。

 

僕はそれからラクになった。

背伸びをする必要もない。無理をしなくていい。

ワリカンしたっていいじゃないか。

あれだけ欲しかったカリスマを捨てた。というより初めからそんなものは無かったのだ。


あれから10年。

まさか自分が同じことを聞くとは思わなかった。


先の母娘の件でいえば、強いて言うならその日僕は店でいちばん声を出していた。おそらくそんなもんだけなのだ。


店長は僕が大将に教えを乞いた日と同じ23歳だ。

彼がこの先、カリスマ性の正体を暴き、真の意味でカリスマを伴って生きていくことを僕は応援するし、願ってやまない。


そんな金曜日、そんなことを思い出して彼を愛おしく感じた。

しかしその刹那彼はアルバイトに信じられない一言を口走った。

 

 

 

「おれも老けたいわ〜」

 

 

 


大将、カリスマ性ってどうやったらつきますか?